設立趣意書

設立趣意書

 今日、生命科学のめざましい発展によって、生物の進化、遺伝子診断・治療などの生物学や医学の分野において、未解明の課題に光があてられるようになりました。しかし、そうした流れにおいて、分子生物学的手法が多くの人々に利用されるほどに、分子レベルの要素還元主義の方向に偏り、自然の多様なつながりを見失っていくように思わざるをえません。

 そのような現状を危惧する私たちは、あらためて自然の世界をふりかえり、生物と人との相互関係を、一定の社会や地域の文化における個別性に注目していくとともに、比較分析を試みながら地域を超えた普遍性を探求していく智の拠として、「生き物文化誌学」を提唱することにいたしました。

 ここでいう「生き物」は「生物」とは異なり、人を含むあらゆる生命体の多様なつながりを強調した概念であり、また「文化誌」とは長い相互関係の過程で育まれてきた「生き物」を、ミクロとマクロ双方の視点からひとつひとつ具体的に描いて分析していこうとするものであります。たとえば、文化固有の生物分類や利用体系の記述・分析から家畜や栽培植物をめぐる起源と伝播など、ひろく「生き物」をめぐる多様な観念表象と伝承、在来の生業活動にみられる豊かな知識や技術、生物資源の管理・保護をめぐる問題などがあげられます。

 したがって、既存の学問分野である人類学、生態学、分類学、遺伝学、育種学、民族学、民俗学、言語学、地理学、歴史学、政治学、経済学、社会学、工学、農学、林学、水産学、博物学など、広範囲の分野にまたがった連携と協同が必要になることはいうまでもありません。

 また、それぞれの地域で実践活動をかさね、幅広い知識をもたれている在野の研究者や現場を肌で感じている方々、そしてこれから研究をめざす若い方々などの積極的な参加の場でもあります。つまり、分野横断的な相互理解をめざすとともに、地域からの発信と参加を特徴とする学会をめざしております。

 私たちは、地域から日本、さらに地球全体にかかわるさまざまな次元で、「生き物」をめぐる豊かな智の発掘と情報の交換・共有をめざすフォーラムとしての役割を果たし、次世代への橋渡しとなることを大きな目標として、「生き物文化誌学会」を設立する次第であります。

平成一五年四月吉日


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